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JBL御得意の「アルミリボン線エッジワイズ巻き」
  • JBLスピーカーの広告によく出てくる「アルミリボン線エッジワイズ巻き」って、何なんですか、と聞かれた、というお話です。
    JBLスピーカーの広告
  • JBLは、広告の仕方もうまく、高校生の頃に長兄の買っていた雑誌を垣間見た時から、そのアカ抜けた広告戦略に「だまされてきた」(^^;)一人です。いくつかその製品を使うような年齢になって、今は結構批判力も付いていますから、ある程度の判断は出来ますが、その頃は正に憧れの対象でした。、、、というところで、「アルミリボン線エッジワイズ巻きとは、何じゃい」というメールを貰ったので、少し整理しておく気になりました。これは、スピーカーのコーン紙を駆動するヴォイスコイルの製法に関する話で、JBLがウリにしている同社製品のノウハウです。
    (ダイナミック)・スピーカー
  • スピーカーは、コーン、ホーン、ドームなどが一般的ですが、こういう形式で音を出すものをダイナミック・スピーカーと言います。この手のものでは、アンプから音声信号に基づいた電力が送られてきて、ヴォイスコイルに流れると、周りの磁気回路(スピーカーの後部にコブのように出ているところ)と、電磁気的に相互作用をします。ヴォイスコイルと一体となっているコーン紙は、この相互作用によって、音声信号に比例した力を受け動きます。紙などの発音体が前後に動くので、スピーカー周りの空気が動かされ、何らかの音を出るというのが、一般的です。
    アルミ、とは
  • ヴォイスコイルは、中枠であるボビンを芯にして、導線をラセン状に巻きつけたものです。電力を流しますから、やはり電気の流れやすい導線でコイルを巻きます。その導線がアルミであるということです。通常は銅を使うことが多いのですが、アルミも伝導性は結構良いのです。後は加工性の問題です。
    リボン線、とは
  • ヴォイスコイルが周りの磁気回路と作用しあって、コーン紙を大きく動かせば動かすほど、より大きな音が出せます。従って、大きな音を出すには、ヴォイスコイルに大きな電力を流すことが必要です。コイルに流す電力は、普通アンペア・ターンといって、流す「電流の大きさ」と、「コイルの巻き数」の積で決まります。「電流の大きさ」は、線が太い方が稼げます。でもヴォイスコイルは、狭い所に押し込めるので、使う線の太さには限界があります。程々の太さにした場合、次に効いてくるのが「コイルの巻き数」です。狭い所に丸線で巻くのは空間効率が良くなく、角線をみっしり巻く方が良いでしょう。断面が矩形でも正方形から長方形まで色んな縦横比率があります。JBLでは、どちらかといえば平べったい語感のあるリボン線を選んだというわけです。リボン線、というのは「きしめん」という感じで、決して「うどん」ではなく、もっと平べったくて、幅が厚みよりも大きいということを意味します(何を当たり前のことを、と言わないで下さい。これが後で効いてくるんです)。ここまでで、アルミ製のリボン状の線で、ヴォイスコイルを巻いていることが判ります。
    エッジワイズ、とは
  • 次の「エッジワイズ (Edgewise)」は、欧米の工学関係の用語の使い方です。「何とかワイズ」という言い方が、他にもいっぱいあります。日本語では余りありませんが、「ナニナニ向き」とか、「ナニナニ方向に」とか言いたい場合に、この「ワイズ (-wise)」という接尾語をつけるようです。「エッジワイズ」というと、「エッジの方向に」とか「エッジの向きに」ということになります。上記したようにヴォイスコイルは、流れる電流が同じなら、コイルの巻き数が物を言います。幅の狭い所にリボンを巻くときに、このリボンの「幅」を使うよりも、通常はそれよりもずっと小さい「厚み」の方を使う方が、密に巻けて巻き数が稼げます。リボンの厚み、即ち「エッジをコイルの芯紙であるボビンにくっつけて巻く」という訳です。そうすると、幅の方をボビンに接して巻くよりも、コイルの仕上がり太さは太くなりますが、巻き数が多く取れることは自明のことでしょう。こういう巻き方は、熟練を要する(とJBLは称している)そうです。ステサン誌の海外工場見学記事で、オバサンがエッジ巻きをしている写真が出ていたことがありました。「この人は数少ないヴェテランです」とキャプションが付いていたのを覚えています。
    「アルミリボン線エッジワイズ巻き」
  • 、、、ということで、「アルミリボン線エッジワイズ巻き」は、能書きどおりであれば、「電気が流れ易い線を使って、ヴォイスコイルを非常に密に巻いている」という訳です。これなら「高性能」だと自慢しやすいということで、JBLはここを売り込んでいました。この手法自体は別に専売特許でもないようですが、他のメーカーは余りやらなかったようです。日本でも、何本かのスピーカーの説明書に書いてあるのを見かけたことがありますが、滅多には見かけません。さて、高校生のウブな心には、「アルミリボン線エッジワイズ巻き」は燦然と輝く金字塔に思えました。それと同時に、「名器D130は、1ミリワットでも音が出るほど高能率だ」という売り文句が付いて回っていましたから、もう「蛇に見込まれたカエル」状態です。それ以来、その手の方向を目指すオーディオを追及しています。

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